新聞記事文庫 国際労働問題(9-033)
大阪朝日新聞 1927.4.4(昭和2)
南京事件に対する共同具体解決案成る
わが政府真先きに承認
近く蒋氏と交渉開始
北京における日、英、米、仏、伊五ヶ国公使がかねて協議中であった南京事件共同解決案については既に列国の意見が一致して蒋介石氏を相手として交渉すべき 具体的解決案の成立を見るに至り日本政府は芳沢公使に対し右解決案を承認する旨の訓令を発しており、各国政府も殆んど日本と同様の態度であるから共同要求 事項に関するものは最早決定したものと見られるが、列国側が今日なお蒋氏に右解決案を提示し要求事項を交渉せざるはこれに附帯する他の問題について列国間 の意見が一致せざるためである
即ち列国中には解決案提示と同時に或種の共同的手段をとるべきことを強硬に主張するものあるに対し居留民保護の現状から利害を同じうせざる国は 一応蒋氏が列国の共同要求事項なかんずく将来に対する保障について誠意と実力を如何にして示すかを見た上でこれを行うを可とし、結局この点に関する意見の 不一致が列国の対蒋介石交渉を遅らせている次第である、しかし共同的手段の時局に及ぼす影響の重大なるを顧み列国ともこの際は穏忍して単に解決案の実行を 蒋氏に交渉するに止め徐ろに爾後の経過を見ることに決するものと観測されるから、ここ数日の後にはいよいよ列国対蒋氏の交渉が開始されるものと見られてい る(東京電話)
必ず日本の満足する解決策を講ずる 蒋氏代表矢田総領事に力説
蒋介石軍の郭交渉長は一日矢田上海総領事を訪問して蒋氏に代り南京事件解 決策に対する蒋氏の態度を述べ一両日中に南京から調査報告がくるはずであるがもし暴行が革命軍によってなされたものであれば必ず日本政府を満足せしむるよ うな解決策をとる旨を力説するところがあったと(東京電話)南京事件は反革命派の所為 外交部宣言を発表
【漢口特電一日発】国民政府外交部は三十一日南京事件に対する宣言を発表した、その要領は左の如くである南京事件は反革命派の所為である、外人の死傷者一人に対し
イギリス大使幣原外相と懇談
英国大使チリー氏は二日午後五時外務省に幣原外相を訪問して会談およそ一時間で辞去したが、右は南京事件解決案に対する英国側の態度を述べて支那の時局問題について種々意見の交換をなしたものであると(東京電話)郭氏を江西交渉委員に 領事団へ通告
国民政府は江西省交渉委員として郭泰祺氏を任命、新警察庁長とともに正式に領事団に通知して来た郭氏はかつて黎元洪氏の秘書をしていた人である(東京電話)在支警備艦 四月一日現在
四月一日現在支那沿岸における帝国警備艦艇は左の通りである(東京電話)【上海】利根、川内、五十鈴、平戸、天竜、隅田、伏見、時津風、榧、竹、槙樅、蓮、蓬【鎮江】磯風【南京】檜桃【ウーホー】樫【九江】柳【漢口】 嵯峨、比良、浦風【長沙】堅田【宜昌】勢多【重慶】保津【青島】第一艦隊【チーフー】駆一六【アモイ】第二艦隊【広東】宇治このほか八雲は三日午後七時横 須賀発上海へ、阿武隈、球磨は一日青島発上海へ、安宅は二十八日上海発漢口へ、天津風は二十八日鎮江発大冶へ、春日は三十日徳山発大連へ、欅は三十一日発 呉淞へ、いずれも航海中である
漢口の左傾派 我陸戦隊と衝突す 形勢いよいよ重大化し在留邦人全部引揚に決す
【上海特電三日発】漢口における排日空気が濃厚となった ため邦人は続々引揚げを開始しつつあったが、この機に乗じ左傾派は引揚げ民に暴行せんとしたため保護のため上陸していた陸戦隊と衝突し騒擾勃発したため漢 口居留民はいよいよ全部引揚げに決し上海よりは更に汽船を派遣することになった避難婦女子上海に着く
【上海特電三日発】漢口よりの第一回避難民として南陽丸で同地の婦女子九十名と蕪湖よりの二十名は三日午後四時来港し、旅館及び知人の宅に落着いたが一部は上海知恩院の避難所に行ったものもある在支全米人に引揚準備を命ず 北支の在留者も海岸に集合 国務卿から公使に訓令
【北京特電三日発】アメリカ駐支公使マクマレー氏が国務卿ケロッグ氏より左の如き訓令に接したと一、北支那一帯の在留米人も海浜に近き都市に集合せしむべく訓令すること
二、それらの米人の財産及び経営する商業を支那官憲に託し暫く保護の責任を負わしむること
三、必要時には在支米人全体は即時支那全国より引き揚ぐること
マクマレー氏は京津及び北支一帯の米人に右の旨を通達し十日内に一切の準備を内命したと伝えられる、とに角北京方面からすでに大連方面に向う米人少なからず、大連通いの汽船は満員の有様である
仏国軍艦二隻増派
【連合上海一日発】上海フランス海軍司令部入電によれば、フランス政府は軍艦カシオベ号並にレギュル号の二隻を支那に急航せしむるに決し、両艦に対しすでに右命令を発したと、なおカシオベ号は太平洋上の仏領某島より、レギュル号は本国より派遣されるものである広東の排外熱いよいよ悪化す
【香港特電二日発】広東各界においてはイギリス海軍のパース湾攻撃問題、上海南京占領祝賀、戦死同胞追悼大 会を一括して三日帝国主義反対大会を開催し大示威行列を行うこととなったが、同大会には省港罷工各工会も挙って参加するに決した、広東における排外熱は最 近急速度に悪化しつつあり、しかも国民党右派が極力単独排英熱を煽らんとしているのに対し左派が英、米両国も併せて排斥せんとしつつあるは注目されている英国の態度硬化 深更臨時閣議で討議
【ロンドン特電一日発】三十一日夜遅く英国の臨時閣議開かれ、南京事件解決及び今後の防護手段など討議されたが、イギリス当局の憂慮は天津、北京に及びつ つありもし近くイギリスが陸海軍を増派することあるも一般の人々は驚かないであろう、右増派は急に実現するや否やはまだ判明せぬが、イギリスの対支態度が 最近急に硬化したことは争われない現象である更に千五百の海兵団を動員 米政府の対支策硬化す 損害賠償を強硬に要求せん
【ワシントン特電一日発】アメリカ政府の対支態度はますま す硬化しつつあるが、更に一千五百名の海兵団をサンディエゴに召集の命令を発し必要の際は直に上海に向け出発し得る準備をととのえせしめた、国務卿ケロッ グ氏は今回ステートメントを発して、アメリカ政府が在支アメリカ人を全部支那から引揚げさせるとの風説があるがこれは根拠なき風説に過ぎずと指摘し、同時 にいわゆる引揚げの意味はアメリカ人を安全に保護し得る地点に集合せしむることだと附言したがこはアメリカ政府が支那に如何なる動乱が起っても在支アメリ カ人を十分保護せんとするを意味することは明らかである、アメリカ当局はイギリスと協力しての損害賠償要求については考慮しているが、アメリカ人の死傷及 び掠奪に対する損害賠償を強硬主張した通牒が既に発せられた模様である、ケロッグ氏のステートメントに曰く支那に在るアメリカの外交及び軍事の代表者等は列国の代表者と完全なる協調をなしつつあって、列国と同様アメリカ人の生命財産の保護という共同 の目的を以て事に当っている、アメリカの政策は余のすでに声明せるが如く、支那の内乱の渦中に投ずることなく適法にアメリカの利益を保護せんとするにある
唐生智氏反共産派的態度を表明
【漢口特電一日発】唐生智氏は四囲の形勢不利なるを見て最近著るしく反共産派的態度を表明し『打倒蒋介石運動』を阻止している、目下政治運動は旺んでないが苦力人力車夫、運転手その他の横行が日とともに甚だしく漢口の失業者二十万と称せらる潭氏漢口を去る 左右両派の内訌
【漢口発二日某所着電】漢口における国民党左右両派の内訌は日々猛烈を極め、中央執行委員会においては蒋介石氏免職問題が沸騰したほどであって、潭延●氏の如きは極力これに反対したるも手におえぬため展墓に名を藉りて長沙に帰り江西に向ったと国民政府の対英抗議 土匪討伐事件
【広東特電三十日発】香港政庁が去る二十三日軍艦四隻、飛行機四台をパース湾に派遣し陸戦隊を上陸せしめ土匪を討伐し、民家二十余戸を焼き払い死者十三名を出した事件に対し、国民政府は主権を侵害するものとの理由で香港政庁に左の如き抗議を提出した一、英国政府は国民政府に陳謝すべし
二、今後再びこの種の不法行為に出でざることを保証せよ
三、被害程度判明次第賠償金を要求する権利を保留す
なお各界反英屠殺同胞後援会が組織され、大いに反英の気勢を挙げんと計画している、また在広東の香港総工会は香港政庁がもし賠償を承諾せざる場合は総罷業を実行する旨の決議をなした、目下のところではなお平穏である
馮玉祥氏包頭鎮へ出動
【連合北京一日発】五原からの報道によると、馮玉祥氏は包頭鎮方面に向け出動を開始したと、京綏線方面の形勢も最近楽観を許さないものがあるイギリスは単独行動に出ぬ 最後通牒説はウソ
【ロンドン特電一日発】イギリスのセンセーショナルな某新聞紙はイギリスは三十一日夜の閣議で南方派に最後通牒を送るに決したと報道しつつあるが、右は全 然風説にすぎず、日、米両国との交渉が纏まってから何分の決定をなすはずである、これについて極東通の某イギリス人は訪問せる本社特派員に語る『日本はあわてる必要がない、英、米は口に強いことをいっても地理的に支那から遠ざかっているから、いざとなると日本の陸海軍に頼るほかはな い、もしイギリスが最後通牒を送るとしても、日本が厭というならば実際において何もできない、日本から見ればイギリスの傍杖を喰ってここ暫らく困るであろ う、既に長江地方を抛棄し、まさ□北支那をも抛棄せんとするイギリスを見よ、日本よりの情報によれば幣原外相は軍国主義者からいじめられているそうだが、 ここが忍耐のしどころ、しかも南方派がもし長駆して北京、天津を占領するとしても、内部からの分裂は規定の事実であるから、この際忍耐して支那と戦わず、 将来を期して自重すべきではないか』
南京事件唯一の責任者は国民政府 アメリカ国務卿の声明 損害賠償要求の意向
【ワシントン特電二日発】アメリカ国務卿ケロッグ氏と北京 駐剳アメリカ公使マクマレー氏との間にしばしば電報の交換が行われたがこれによってアメリカ当局は、日、英、米三国は結束して南京事件の損害賠償を要求す るとの風説に対しては沈黙を守っているが、その実アメリカは損害賠償を請求する意向であることが明らかになった、ケロッグ氏は何事か期するところあるもの の如く南京駐在のアメリカ領事ジョン・ケー・デーヴィス氏よりの電文を公表し南京暴行事件の唯一責任者は国民党であるとて陳友仁氏がその宣言書において南 京事件は反革命派の所為だと述べたところと正反対を声明した、ケロッグ氏がこのデーヴィス氏の電文を発表したのはアメリカ政府が国民政府に損害賠償を求め る際の与論に予じめ備えたものと見るべきであろう、二日ケロッグ氏は大統領クーリッジ氏およびイギリス大使サー・エズメ・ホワード氏と密議を凝らしたが如 何なる方法で損害賠償を要求するかは全く秘密にされている、なおまたケロッグ氏はウィリアムズおよびホー両提督からの報告を公表し国民党は嘘をいい張って ゆこうと試みている旨を述べた、国民党が南京事件を黙殺しているのでアメリカ政府の国民政府に対する態度は著るしく変り表面上は不干渉の態度を維持して行 くが最早国民政府を信任してはいないイギリス政府の要求拒絶の場合も単独で 非常手段はとるまい
【ロンドン特電二日発】南京事件に関するイギリス側提唱の条件は第一 暴虐に責任ある将校の処罰
第二 死傷者に対する賠償及び財産上の損害に対する賠償
第三 日、英、米の国旗を前にしての充分なる謝罪
の三項であるが、もし南方派がこれに応ぜざる場合の処置が重要問題であるが、日本は陸、海軍を行使する一切の協同運動に参加せず、アメリカもとかく引込み思案なので、イギリスは単独に非常手段をとるものと噂するものもあるが、余(伊藤特派員)の探聞するところによれば
イギリスは単独に強圧手段をとらないのみならず、協調的譲歩的の根本方針を引続き維持すべく、南京事件は根本方針に対する一時の障害と看作されている
今回の一個旅団増派は積極的討伐の意味を含まず、上海及び他の方面において在留英人保護のためのみであると了解される
イギリスまた五千名を増派 近衛兵始め一箇旅団
【ロンドン特電二日発】予期された如く二日イギリス陸軍省は上海防備軍拡張のため近衛兵二個大隊を始めとし歩兵を主とする一個旅団に出動命令を発した、情報によれば右は戦時編成旅団であって人員約五千、タンク隊、装甲車隊、野砲及び重砲隊を含み、現役兵を主とし若干の予備兵をもってなり出発の日取はまだ決定せぬが約一週間以内であろう、なお今後第二第三予備兵若干が召集されるであろう、右防禦軍の一部は天津、北京両所に配置されるであろう
英国広東に増兵
【広東特電二日発】二日香港よりイギリス兵二百名沙面に来り警戒にあたっている平服隊解散さる 労働団の反蒋運動
【連合上海三日発】南軍正規兵によって二日中に解散された便衣隊は七百六十四名で中武装せるもの二百十四名、武装せないもの五百五十名である、その際死者八名を出した、なお労働団体は二日支那街各所を游行し三民主義を打破せよ、蒋介石を葬れと叫び反蒋熱を鼓吹している福州の排英熱 在留邦人も万一の手配
【上海特電三日発】福州三十一日その筋着南京事件について福州支那新聞は英米の砲撃のみ伝えその真 相不明なるため反英熱はいよいよ盛んとなった結果、在留邦人は居留民会を開き万一の場合はまず婦女子を馬尾の支那海軍司令部に避難せしむるに決定しその手 はず中である、支那海軍はこれに対し快諾を与え当局は水陸の護送まで保障したと九江は左派全盛 近く衝突か
【上海特電三日発】九江一日発、近来九江の左派は急に勢力を増し露骨に共産的言動をなしている、従って早晩 左右両派の衝突を免れずと伝えられる、また蒋介石氏は左党を圧迫したとて国民政府に免職されたと新聞に伝えられ蒋介石氏自身も辞職を申し出でたとか伝えら れたので左党の気勢はなかなか盛んとなった総政治部の改称
【漢口特電二十九日発】鄧演達氏の総政治部は全体会議の決議によりその組織を変更することとなったが、いよいよ今回『中央軍事委員会総政治部』の看板をかかげた、従って同部所属の新聞、雑誌も肩書を変えて世に出ることとなった長沙も不安 米仏人引揚げ
【上海特電三日発】長沙発その筋着電によれば長沙において三十一一日の両日にわたり上海占領祝賀提灯行列が行われ反蒋介石の宣伝ビラも多数撒布された、南京事件についてはデータ作成:2006.6 神戸大学附属図書館
記事・論文名 | 南京事件に対する共同具体解決案成る : わが政府真先きに承認 : 近く蒋氏と交渉開始 |
掲載新聞紙名 | 大阪朝日新聞 |
出版年月 | 1927.4.4 (昭和2) |
メタデータID | 00789382 |
リソースID | 新聞/新聞等/記事・論文 |
本文の言語 | jpn |
データ登録日 | 20060616 |
所在 | 神戸大学経済経営研究所 |
新聞記事文庫分類 | 国際労働問題 |
原巻数 | 9 |
記事番号 | 033 |
原リール番号 | 10610 |
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